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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(オ)927号 判決

当事者及び代理人

別紙当事者目録(一)、(二)、(三)記載のとおり

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は別紙当事者目録(一)、(二)記載の上告人らの負担とする。

理由

別紙当事者目録(一)記載の上告人ら代理人伊藤淳吉、同加藤保三、同加藤茂の上告理由第一点について

共有物分割の訴えにおいては、当事者は、単に共有物の分割を求める旨を申し立てれば足り、分割の方法を具体的に指定することは必要でないとともに、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによつて著しく価格を損するおそれがあるときには、裁判所は、当事者が申し立てた分割の方法にかかわらず、共有物を競売に付しその売得金を共有者の持分の割合に応じて分割することを命ずることができるものと解するのが相当である。したがつて、原審が、被上告人の申立どおりに「本件土地を競売に付する」旨のみを命じた第一審判決の主文を職権で更正し、「本件土地を競売に付しその売得金を共有者の持分の割合により分割する」旨を命じたことは、民訴法一九四条一項所定の更正の要件を充足しているかどうかはともかく、前述した共有物分割の性質に照らし結局のところ正当であるといわなければならない。論旨は、採用することができない。

同第二点ないし第四点について

原審が本件土地を現物で分割することは不可能である旨判断したことは、その挙示する証拠関係及び説示に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(伊藤正己 環昌一 横井大三 寺田治郎)

当事者の目録

(氏名の下の括孤内は持分の割合を示す)

上告人 20の1 加藤正義

(七〇、八〇〇分の四九八)

外二六名

右二七名訴訟代理人 伊藤淳吉

中野克己

加藤保三

右訴訟復代理人 加藤茂

当事者目録(二)

上告人116 黒田重信

(三五、四〇〇分の四〇〇)

右三名訴訟代理人 瀬辺勝

当事目録

上告人11の21の1 太田重雄

外一三五名

被上告人 名古屋繊維流通センター協同組合

(一一、一五一、〇〇〇分の五、三三七、一五〇)

右代表者 山村桂一

右訴訟代理人 奥嶋庄治郎

上告代理人伊藤淳吉、同加藤保三、同加藤茂の上告理由

第一点 原判決は訴訟法上判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背があり、且つ理由に齟齬がある。

原判決(二審判決――以下同じ)は控訴人らの控訴を棄却したうえ第一審判決を次のとおり更正した。すなわち「原判決別紙物件目録記載の物件を競売に付し、その売得金を本判決別紙当事者目録掲記の各持分の割合により被控訴人と控訴人らに分割せよ」としたのである。

そもそも判決の更正とは判決の判断内容を変更するのではなく判決書の表現上の誤り(誤記)を訂正補充することをいうのである。すなわち、判決書に違算、書き損じ、その他これに類する表現上の誤謬があり且つそれが明白である場合に限られるのである(民事訴訟法第一九四条第一項)。

本件で被上告人は第一審主文判示の限度でのみ勝訴判決を求めているのであつて、それに対し原判決主文の判決をするが如きは明らかに申立ざる事項についてまで判決をしたものとして違法のそしりを免れない(民事訴訟法第一八六条)。

原判決は「被控訴人の請求もかくの如きものと解すべきである」とするが、だとすれば第一審判決はその主文表示の限度でのみ判決したのであるから附帯控訴もない本件においては第一審判決以上のものを判示したといわざるを得ない。かような場合に軽々に更正判決というテクニックを用いることは厳格であるべき訴訟手続をないがしろにし、訴訟当事者の訴訟への信頼を失なわせることとなる。

すなわち、原判決は民事訴訟法第一九四条、ひいては同法第一八六条の解釈適用を誤つたものであり、すみやかに破棄さるべきものである。なお、判決主文はいうまでもなく既判力を生じ裁判の主要部分を占めるものであるから、これにつき当事者の攻撃防禦を尽すべき核心たるものであり、更正される内容について上告人に対し攻撃防禦の機会すら与えず、且つ申立なき事項に判決することは民事訴訟法の大原則たる当事者主義に反するものであることは明白である。更に付言するに原判決はその事実摘示において「被控訴人代理人は主文同旨の判決を求めた」(判決第二丁表四行目)としながら更正判決をすることは全く理解に苦しむところであり、本件一件記録によるも被上告人が更正判決を含めて原審主文同旨の判決を求めていないこと明らかであるから更生できないのに更生をした点に法令の違背があり判決に影響を及ぼすこと明らかのみならずその理由にも齟齬がありこの点だけからも破棄を免れない。〈以下、省略〉

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